紀 恵子 (1986年04月号)
高校教師を中心とした、「三重フィールド研究会」の会員達が、目と耳と足でまとめた「三重県の伝統産業」「三重県の伝統料理」に続く郷土紹介シリーズの第三弾である。
かくれた名所として選ばれたところは、五十ヶ所にのぼり、歴史的・民俗学的に、いきとどいた考証がほどこされており、最近相ついで出された名所案内、観光の手引書とは一味ちがった、いわゆる文化案内書となっている。
多数の執筆者が分担した場合に起りがちな文章のレベルの格差もそれほど目だたず、よくまとまった郷土の歴史・文化・民俗についての興味深いエッセイ集ともいえる書となっている。小・中学校の教師にとっても社会科を教える場合の良い資料となるであろう。
ただ、難をいえば、「かくれた名所」というタイトルにそぐわぬ「有名な名所」についての記述が多すぎるという点があげられよう。
多度大社、千本松原や、関町・伊勢市・志摩に関する章における紹介地は、三重においてはもっともポピュラーな名所であり、すでに語りつくされている。ここでは「杉谷遺跡と五百羅漢」や、「和銅の道に沿って」あるいは「黒田庄遺跡を歩く」、「飛鳥・五郷・神川の郷」といった章に見られるような視点のあて方がもっと欲しかった気がするのである。
たとえば、「熊野市で古い神社としては大馬神社があります。-----」と紹介されている、熊野市井戸の大馬神社は文明十年(1478年)の棟札がある山間の辺境に座す由緒ある大社である。書中には省かれていたが、あの七里御浜にあって海に咆哮している大獅子岩は、大馬神社の狛犬であるという伝説を持つほどのスケールの大きい古社で、そこへたどる山道もなかなかの難路であり、神社のあるあたりの集落は、風情のある典型的な山村であったが、現在はすさまじいまでの過疎化の波に洗われている。こうした忘れられつつある名所こそ、もっとくわしく紹介をしてほしいところである。
とはいうものの、授業の合い間をぬっての調査活動にもかかわらず、執筆者達は、それぞれ、その土地に関わりの深いという利点を生かし風土性を十分に加味して、単なる名所案内に終らせぬよう苦心と工夫をこらしていることがどの章からもうかがえる。
三重に生きる子どもを育くむ職にある者としてまず、子どもが生きている三重の郷土を知ることが必要であり、本書はそのための資料として恰好の教科書といえよう。