「科学の教室」
岩崎敬道 / 左巻健男 編著
新生出版 1,600円

紀 恵子 (1987年02月号)

  科学や、物理の本というと、普通の人々にとって教科書以外は専門家にしか用のないものと思いこんでしまいがちである。
  ところが本書は、きわめて難解な専門知識を、たくみな具体例と、みごとな文章論理の展開により、読む者に平易に理解させてくれる入門書である。
  例を上げれば、よく引きあいに出される、水槽のなかで泳ぐ金魚の重さを考える問題から、飛んでいるヘリコプターの地上にかかる重さの問題が発展的に提起され、作用、反作用の法則が、実にわかりやすく、開陳されるのである。
  教師として、自然科学の法則を児童生徒に教える場合、一番大切なことは、「論理として納得させる」ということである。暗記させたり、盲目的に信じこませたりすることは科学教育と無縁の営みである。本書は、すじみちをたてて物を考えることがいかに楽しいことであるかを、読む者に教えてくれると同時に、日々の授業のなかで生かしたい、知恵と教訓を与えてくれる。
  しかも、単なる科学の解説書、手引書に終ってはいない。「原子力は安全なエネルギーか」などの章に代表されるように、「環境」「公害」「核」の問題が、科学的にきっちりと提示されていて、「人間の幸福のための科学」のあり方について、教師として、事実にもとづいて認識することの大事さを説得力ある論旨で展開しているのである。
  原子力発電所のしくみを要領よく記述した章で、その末尾に「100万KWの出力を持つ原発を1年間運転すると、長崎型原爆25発分相当のプルトニウムが生産される」とつけくわえられているのを読むと、教師として原発をどう考えるのかということは、さけて通れない問題であることを実感させられるのである。
  そのほか「世の中は、シオと油とカナモノと」とか、「あなたの瞳はすんでいますか」とか、「くらしの中のコロイド」といったように、ユニークで興味深い、身近な題材にもとづいて語られる物理、化学の豊かな知識は教師である我々に、現場で生きて働く力量を必ずつけてくれることであろう。
  本書は、編著者をはじめとして、15名の高校教師の共同執筆となっているが、そのなかに本県の松阪商業高校教諭である村林史郎氏の名前も見受けられる。村林氏をはじめ、いずれの方の文章にもいかにも現場でのすぐれた実践がうかがえる論旨のはこびは、一種の実践報告書ともいえる本書の性格からきているのであろう。
  若い、理科、科学の苦手な、小、中、高の教師の仲間たちに、恰好の啓蒙の書として一読をすすめたい佳書である。


教育を考える一冊の本 1987年