如月 風花

小倉 肇 (1987年02月号)

日が眩し牟婁の風花こまやかに (淡路女)

  洋々と広がる熊野・七里御浜に、風にのって雪片がひらひらと、こぼれてくる日がある。二月の寒の季節、曇天とはいえ、ときおり青空のあらわれるような日である。その名もゆかし風伝峠ごえに、大和より、牟婁に吹きこぼれてくる風花である。
  風花と書いて「かぜはな」または「かざばな」と読ます。美しいイメージと語感を持つこの冬の風物詩は古来多くの俳人たちによってさかんに詠まれ、名句もまた多い。
  万葉集には人麻呂の「巻向の檜原もいまだ雲居ねば子松がうれゆ沫雪流る」という名歌がある。
  鈴鹿おろしのはこんでくる伊勢平野の風花もすてがたいが、厳寒期といえども恵まれた陽光のもと、群青の大海原に吸いこまれていく牟婁の風花の風情はひとしおである。

風花や波路のはては空青き (秋桜子)


三重歳時記 1987年