卯月 花烏賊

小倉 肇 (1987年04月号)

花烏賊のしわしわ釣るる真闇かな (秋桜子)

  2月末から5月にかけて志摩半島や熊野灘の漁村では、烏賊漁のシーズンに入る。特に桜の時期は漁のピークに達する。花烏賊の名の所以である。
  ことに多く獲れるのは真烏賊である。海水のぬるみはじめる3月末より4月にかけて、真烏賊の群は産卵のため浅海に集まってくる。海底のもろもろの物体に卵を生みつけるのである。
  烏賊は光に集まる習性を持つ、それで闇夜の海に集漁燈を煌めかして、多数の烏賊船が出動する。
  かくて花の季節、漆黒の闇につつまれた海原に、宝石をばらまいたような漁火の点滅する光景が展開されるわけである。
  真烏賊は花烏賊という名の他に、桜烏賊とも呼ばれるが、学名は甲烏賊という。するめで馴染み深い烏賊であるが新鮮なものは、生でよし、焼いてよし、きわめて美味である。


三重歳時記 1987年