小倉 肇 (2007年10月号)
秋淋し苔の下行く水の音(杜由)
今年の夏は日本国内においても40度を越える場所が続出する異常な暑さがつづいた。日本がこのまま熱帯化していくのではないかと思われたほどである。
しかし大自然の営みの悠然たる輪廻は頼もしい限りである。何事の不思議もなくいつのまにか山野は秋色に染められている。
わが県下には北勢の八風街道、中勢の初瀬街道、県南の熊野参詣道などなど古街道が残されている。これらの街道散策にはこれからが最も趣き深い季節である。
世界遺産にあげられた熊野古道を例にとれば規模広壮にして整然たる石畳道が上り下りほぼ2キロメートルに渡ってつづく紀北町、尾鷲市間の馬越峠、あるいは古代中国の仙境を彷彿とさせる熊野市波田須、大泊間の大吹峠などではこの季節、まさに冒頭の句のままの情景が現存する。
句の作者、杜由は寛延年間(1740年代)に伊勢で活躍した俳人である。伊勢は中世から近世を通じて京、大阪、江戸と並ぶ俳句の盛んな土地として知られていた。伊勢俳壇の指導者は「神風館主」と称したが杜由はその「神風館主6世」とされた温故の弟である。
この句は洗練された作風で知られた伊勢俳壇の同人らしい深まりゆく秋の清冽さと寂しさを簡潔に表現した佳句である。