十一月 濁酒

小倉 肇 (2007年11月号)

鍋ごてら田におろすなり濁り酒(一茶)

 昔、酒は新米が収穫されるとすぐに醸造し清酒を作った。それで新酒の季語は秋とされてたが今は冬季にしこむのが普通で季節感からいえば初冬であろう。しかし濁酒だけは別である。これは秋がピタリという感である。
 酒造法が厳しく、自家製の濁酒などほとんど見られない昨今であるが、三重県では熊野市の山間集落である大森地区のドブロク祭は有名である。ここは例年、国税庁の許可を得て九斗九升九合(約180リットル)のドブロクを集落の神社の祭礼用に醸造し、11月23日の祭礼当日、鎮守の境内で参拝客にふるまわれる。
 東海・北陸ではこの大森神社と岐阜県の白川村の鎮守祭のみ許可されている奇習である。
 土地の人の話では鎌倉時代伝えられた伝統とかで、当日は近郷近在より左党の方々が集まり、普段は静かな山間の集落もほろ酔いの参拝客でにぎわうという。
 濁酒は糟をこしていないので白く濁っている。白酒・ドブロク・どびろく等々、土地によりさまざまな呼び方があるが、今はなつかしい味となってしまったようである。


三重歳時記 2007年