小倉 肇 (2008年1月号)
四方に打つなづなもしどろもどろ哉(芭蕉)
人日とはじんじつと読む、正月の7日に七草粥を食し一年間の無病息災を祈る行事の日を指す。いわゆる七種の日である。
七種粥といっても春の七草を全種類粥に入れるということでもない。蕪菜やナズナのみを混ぜる地方がほとんどである。三重の各地でもこの日は早朝から家ごとに台所から俎板の上で菜をトントンと刻む音が聞こえたものである。
昔は、この日、菜を刻む前に、地域によっては微妙にちがうが、
唐土の鳥と日本の鳥が
渡らぬ先に七草なずな
アッチむいてバタバタ
コッチむいてバタバタ
などと、唱えながら擂粉木で菜を打つ風習があった。
三重の漁村部では擂粉木のかわりに庖丁の背で打つ所もあったという。
冒頭の句は貞享元年(1684)深川の芭蕉庵で正月を迎えた時の作といわれる。芭蕉41歳であった。
正月も三が日が過ぎ、行事も一段落した七種の日の早朝、家ごとにナズナを打つ音が入り乱れて聞こえてくる―。
平和な江戸の春の風景が目に浮かんでくる長閑な句である。